心のケア、見落とされがちなシーン


 

家族の心のケアが必要なのは、介護中の期間だけではありません。施設入所の後、看取りを終えた後、心の痛み(自分との戦い)はまだまだ終わってはいないのです。ともすれば一生癒えることはないのかもしれません。

このコーナーでは、介護中、介護後、を問わず見落とされがちなシーンを取り上げていきます。是非、体験談をお寄せ下さい。

 

 

施設入所後の家族の心のケアも大切

 

明日は母の施設入所日、この家で一緒にいられるのも今日で最後。さすがに心に込み上げてくるものが・・、それが、なかったんです!なんの感情もないのです!

介護の日々は辛かったけれど、最後の日ぐらい私にも特別な思いがあるだろう、という予想に反したものでした。それどころか信じられないことに「明日、明日まであと1日我慢すれば母から解放されるんだから殺しちゃダメ、殺しちゃダメ、、あと20時間・・、あと10時間、耐えて、耐えて・・、あと3時間・・私がんばれっ、(チッチッチ・・・)」自分の身体がまるで時計の秒針になったようでした。1秒ごとの「介護の今」が辛いんです、もはやたった1日の介護も我慢できないんです。今までの辛さがすべて凝縮されたような長い1日でした。

 

母を施設に置いて帰宅した夜、さすがに灯が消えたような感覚はありましたが、数日もするとそれが怒りに変わっていきました。「なぜ私は何年もの間、あんなに辛い経験をしなければならなかったの?納得がいかない!許せない!」私はてっきり実母を施設に入れた罪悪感にさいなまれるものだと思っていたので、正反対な感情に自分でもびっくりでした。介護から離れて自分のやりたいこと、今まで果たせなかった夢、仕事への復帰、、私には希望がたくさんあるのに、今目の前にあるのは怒りでしかないのです。人間の心って、そうそう合理的には動いてくれないということを初めて実感しました。毎日毎日、答えのない自問を繰り返すばかり、体調も一気に悪くなりました。寝ても覚めても身体が重い、とにかく重くて何もできない。そして足が痛い、まるで合わない靴を長時間履いた後のような激しい痛みです。そんな状態が何ヶ月も続きました。心療内科を探し始めたり、サプリのセントジョーンズワートを買って飲んでみたりもしました。

 

母が入所すると、今まで何年も心の拠り所であったケアマネさんとの縁も切れてしまいます。当たり前ですがケアマネさんからの電話はピタリとかかってきません。お世話になっていたデイサービスもショートステイとも、今までの関係をすべて断ち切って新たな施設との関係を築いていく間、心理的にはまた最初の孤独な状態に戻ることになります。心のケアは自分でするしかありません。でも唯一変わらない私の居場所がありました、家族会です。今まで以上に家族会の有り難さ、本当の意味を知りました。もし家族会に入っていなかったら、感情の軌道修正も難しく、心のリハビリにもっともっと時間がかかったのではないかと思います。

 

そしてもうひとつ、今、同じようなシーンに直面している皆さんに聞いていただきたい言葉があります。私はその頃、カウンセリングの上手なヒーラーさんにお世話になっていたのですが、私の心身の不調を訴えるとこんなことを言ってくれました。

「余分なエネルギーを溜め込んでいるのよ。お母さんを介護している時には必要だったけど、今はもういらなくなったエネルギーを手放さなきゃ。でも、必要ないからもういらない、じゃなくて、そのエネルギーは自分を守ってくれてたんだから、ありがとう、と言って手放してね」

いかにもヒーラーさんらしい言い回しだけど、その時の私には凄く合点がいきました。要するに、今までの自分の感情とか行動とか、すべてを自分で認めてあげるってことですよね。「上手に介護してやれなかった」「母に優しくしてやれなかった」「殺したいなんて思った」それは自分自身を守るために必要だったこと、そんな自分をも認めて許す。その言葉を聞いた時、まるで私から風とともに花びらが舞い上がったかのように、身体がふわっと軽くなるのを感じました。

 

それからしばらく後、車を運転しながら聴いていた音楽が、いきなり、ぽーんっ! と私の心に飛び込んできたのです。「あ、音楽が聴けてるっ、楽しめてる!」それまでの私は大好きな音楽を聴いていても、物理的に耳が聴いているだけで、感動も楽しくもなかったのです。本当に何年かぶりで音楽を音楽として聴けて、嬉しくて嬉しくて運転しながらボロボロと涙をこぼしてしまいました。

 

そしてこれから先も、家族会にはずっとずっと席を置かせていただくつもりです。今度は私がおばあちゃんになるまで、皆さんよろしくお願いします!